ファーストパーティデータ(First-Party Data)とは、自社が、自社の接点で、読者や顧客から直接集めたデータのことです。会員登録の情報、メールアドレス、サイト内での閲覧履歴、購読の記録、アンケートの回答などが該当します。外部事業者から購入・取得したデータや、他社が独自に収集したデータとは区別されます。
近年、メディア業界でこの言葉が急速に使われるようになりました。ただし「サードパーティCookieが廃止されるから」という説明は、2026年時点では正確ではありません。本記事では、4つのデータ分類を整理したうえで、状況の実際と、専門誌にとって何を意味するのかを解説します。
4つのデータ分類
まず、混同されやすい4つを整理します。誰が集めたか、誰から得たかで分かれます。
ゼロパーティデータは、読者が自ら進んで提供したデータです。アンケートへの回答、関心分野の申告、プロフィールの入力など。読者自身が意図して提供した情報なので、精度が高く、利用目的や本人の意向を把握しやすいという特徴があります。
ファーストパーティデータは、自社が自社の接点で直接集めたデータです。会員登録の情報、サイト内の行動履歴、購読やイベント参加の記録など。ゼロパーティデータを含む広い概念として使われることもあります。
セカンドパーティデータは、他社が集めたファーストパーティデータを、提携などを通じて受け取ったものです。信頼できる相手から直接得るため、質は比較的高くなります。
サードパーティデータは、外部の事業者が広く収集し、販売しているデータです。多くの読者に届く一方、収集の経緯が見えにくく、規制の影響を最も強く受けます。
自社でコントロールできる度合いは、ゼロパーティとファーストパーティが最も高く、サードパーティが最も低い。この違いが、いま重要になっています。
「Cookieが廃止される」は、正確ではない
ファーストパーティデータが語られるとき、ほぼ必ずサードパーティCookieの話が出てきます。ここは事実関係を正確に押さえておく必要があります。
Googleは当初、ChromeでサードパーティCookieを段階的に廃止する方針を示していました。しかし2024年7月に一律廃止の方針を転換し、さらに2025年4月には、専用の選択プロンプトも導入せず、現在のCookieの扱いを維持すると発表しています。利用者はChromeのプライバシー設定から可否を管理する形です。つまり、ChromeにおいてサードパーティCookieは、なくなっていません。
一方で、AppleのSafariは2017年のITP導入以降ブロックを進めており、現在は完全にブロックしています。Firefoxもサイトごとに分離する方式を取っています。
整理すると、廃止されたのではなく、ブラウザによって使える範囲が大きく異なる状態が続いている、というのが実際のところです。「いつ廃止されるか」を待つのではなく、「使える範囲が狭まり続けている」前提で考えるべき局面と言えます。
失われる収益は、小さくない
では、サードパーティCookieが使えなくなると、メディアの収益はどれだけ影響を受けるのか。この問いに、査読付きの研究が答えを出しています。
2026年に米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された研究では、GoogleとイギリスのCMA(競争・市場庁)が共同で監督したフィールド実験のデータを用い、5,000を超えるメディアサイト、2億件以上の広告表示を分析しました。
結果として、サードパーティCookieを除去すると、メディア側の広告収益は29.1%減少しました。さらに、実験当時にCookieの代替としてテストされていたGoogleのPrivacy Sandboxは、失われた収益のうち4.2%しか回復できなかったと報告されています。
そして、この話には続きがあります。Googleは2025年10月、実験の対象となったTopicsやProtected Audience、Attribution Reportingを含む主要なPrivacy Sandbox技術を、段階的に終了する方針を発表しました。低い普及率などが理由とされています。つまり、Cookieの代替として期待されていた仕組みは、事実上なくなりました。
代替技術を待てば解決する、という前提はもう成り立ちません。自社で読者を把握しておくこと、つまりファーストパーティデータを持つことの重要性は、この観点からも裏づけられます。
専門誌にとっての意味は、Cookieの話にとどまらない
ただし、専門誌にとってファーストパーティデータが重要な理由は、広告技術の話だけではありません。むしろ、それ以外の3つのほうが切実です。
1つ目は、AI経由の流入を完全には把握できないことです。 計測の環境は、この1年で大きく改善しました。2026年5月にはGA4に「AI アシスタント」チャネルが追加され、ChatGPTやGemini、Claudeなど認識済みのサービスからの流入が自動で分類されるようになりました。GoogleのAIによる概要やAI Modeについても、2026年8月末にSearch Consoleの生成AIパフォーマンスレポートが全サイトへ展開され、自社のページがどれだけ表示されたかを確認できます。
ただし、穴は残ります。参照元の情報が渡らない訪問は、いまも直接流入に混ざります。Search Consoleのレポートで分かるのは表示回数だけで、クリック数や実際の質問内容は公開されていません。そして、AIの回答で媒体名を知った読者が後日あらためて訪れる分は、どこにも記録が残りません。外部の計測で追える範囲が広がっても、自社で読者を特定しておく必要がなくなるわけではありません。
2つ目は、広告の根拠が変わりつつあることです。 専門誌は長らく、部数やページビューを根拠に広告を売ってきました。しかしAI検索の影響でクリックが減れば、この根拠は実態を映さなくなります。代わりに示せるのが、読者の属性と規模です。「この業界の意思決定者が何名登録している」と言えるかどうかが、広告商品の説得力を左右します。
3つ目は、有料購読の母集団になることです。 課金してくれる読者は、いきなり現れません。まず登録し、繰り返し訪れ、価値を実感した人が課金に至ります。その過程を追えるのは、読者を特定できている場合だけです。
専門誌は、何を集めるべきか
集める対象は、大きく3種類に分かれます。
属性。 業種、職種、役職、企業規模。専門誌にとって最も価値が高いのは、この部分です。広告主が知りたいのは訪問者数ではなく、「誰が読んでいるか」だからです。
行動。 どのテーマの記事を読んでいるか、どのくらいの頻度で訪れるか、メールを開いているか。関心の所在と、関与の深さが分かります。
意向。 関心分野、現在抱えている課題、検討している投資。アンケートなどで直接尋ねる形になり、ゼロパーティデータにあたります。手間はかかりますが、精度は最も高くなります。
加えて、B2Bの専門誌では法人単位での把握が課題になります。1つの契約の中で、実際には部署の何人が読んでいるのか。回覧という見えない部分を数えられる形にすることが、契約設計にも広告提案にも効いてきます。
難しいのは、集めることより「使うこと」
最後に、実務での注意点を挙げます。
海外のメディア向けの解説では、多くのメディアがつまずくのは収集ではなく活用のほうだ、という指摘が繰り返し出てきます。登録フォームを置いてデータを溜めることは、比較的簡単にできる。しかし、溜めたデータを広告提案や購読の設計に結びつけられずに終わる例が少なくありません。
これを避けるには、集める前に使い道を決めておくことです。広告主に何を示したいのか。どの読者に、どの提案を出したいのか。そこから逆算して、集める項目を決める。使い道の決まっていない項目は、登録率を下げるだけで終わります。
筆者の見解:専門誌にとっては、規模より解像度が武器になる
ここからは私の意見だが、ファーストパーティデータの議論は、大手メディアの文脈で語られることが多い。数百万の登録者を抱えてセグメントを切る、という話だ。専門誌がその土俵で戦っても勝てない。
しかし、専門誌には別の強みがある。解像度だ。数万人の匿名の読者より、「この業界で設備投資の決裁に関わる500人」のほうが、広告主にとって価値が高い場面は確実にある。母数の大きさで測れば負けるが、誰であるかの精度で測れば勝てる。
そして、この精度は自然には手に入らない。読者に登録してもらい、属性を答えてもらい、行動を追える状態を作って初めて成立する。地味で時間のかかる作業だが、ここを積み上げた媒体だけが、AIや広告技術の変化に振り回されずに済むのだと思う。外部の仕組みは変わり続けるが、自分で持っている読者は変わらない。
まとめ
ファーストパーティデータとは、自社が自社の接点で直接集めたデータです。読者が自ら提供したゼロパーティデータ、他社から受け取るセカンドパーティデータ、外部から購入するサードパーティデータと区別されます。
サードパーティCookieは廃止されたわけではなく、ブラウザによって扱いが異なる状態が続いています。ただし査読付きの研究では、Cookieを除去するとメディアの広告収益が29.1%減少し、当時の代替技術で回復できるのは4.2%にとどまると報告されました。その代替技術も、2025年10月に主要な部分の終了が発表されています。
専門誌にとっての重要性は、それ以外にもあります。AI経由の流入を完全には追えないこと、広告の根拠がページビューから読者の属性へ移りつつあること、そして有料購読の母集団になること。
集めるべきは、属性、行動、意向の3つ。そして最大の課題は、集めることではなく使うことです。使い道を決めてから集めてください。
よくある質問(FAQ)
Q. ファーストパーティデータとは何ですか?
A. 自社が、自社の接点で、読者や顧客から直接集めたデータです。会員登録の情報、メールアドレス、サイト内の閲覧履歴、購読の記録などが該当します。外部事業者から購入・取得したデータや、他社が独自に収集したデータとは区別されます。
Q. ゼロパーティデータとは何が違うのですか?
A. ゼロパーティデータは、読者が自ら進んで提供したデータを指します。アンケートの回答や関心分野の申告などです。ファーストパーティデータはより広い概念で、読者が意図せず残した行動履歴も含みます。ゼロパーティデータをファーストパーティデータの一部として扱う場合もあります。
Q. サードパーティCookieは廃止されたのですか?
A. されていません。Googleは2024年7月に段階的廃止の方針を転換し、2025年4月には専用の選択プロンプトも導入せず現状を維持すると発表しました。一方、Safariは第三者Cookieをデフォルトでブロックしており、FirefoxはサイトごとにCookieを分離してクロスサイト追跡を防ぐ仕組みを標準にしています。廃止されたのではなく、ブラウザによって扱いが異なる状態が続いています。
Q. Cookieがまだ使えるなら、ファーストパーティデータは不要ですか?
A. 必要です。査読付きの研究では、サードパーティCookieを除去した場合にメディアの広告収益が29.1%減少し、当時の代替技術で回復できたのは4.2%にとどまると報告されています。しかもGoogleは2025年10月、その代替技術の主要な部分を終了する方針を発表しました。加えて専門誌の場合、AI経由の流入を完全には追えないこと、広告の根拠が読者の属性へ移りつつあることなど、Cookieとは別の理由からも重要性が高まっています。
Q. 何から集めればよいですか?
A. 業種、職種、役職、企業規模といった属性からです。広告主が知りたいのは訪問者数ではなく誰が読んでいるかであり、専門誌にとって最も価値が高い情報だからです。ただし、集める前に使い道を決めてください。使い道の決まっていない項目は、登録率を下げるだけになります。
参考にした資料
Can privacy technologies replace cookies? Ad revenue in a field experiment(PNAS, 2026)
Introducing Search Generative AI performance reports in Search Console(Google Search Central, 2026)